二日酔いで目が覚めた時
ダイエットしているのに満腹になるまで食べてしまった時
英語の勉強が続かなかった時
やろうと決めたことが継続できていない自分を自覚して、罪悪感や不安を感じたことはないだろうか。
そんな最悪の気分を一気に晴れやかにするための手段、それは「自分は変われるんだ」と決心することだ。
「変わろう」と決心すれば、その瞬間から、ほっとした気分になる。自制心を取り戻すことができる。
失敗したのは自分だなんて思わずに、未来に目を向けよう。これまでの自分とは全く違うのだから。
変わろうと思った瞬間に希望に満たされ、新しい自分の人生を考えるだけで楽しくなる。
「今度こそ、お酒を飲むのをやめよう」
「今度こそ、体重を10キロ減らそう」
「今度こそ、TOIECで900点を取ろう」
「今度こそ」
そして時間が経つと、また自分が決めたことを成し遂げられない自分を自覚して、落ち込み、鬱々とした気持ちになる。
最悪な気分になって、「いや、俺の人生はここからだ。これから変わるんだ」と決心する。
そして、同じことを繰り返す。
偽りの希望シンドローム
心理学では、「偽りの希望シンドローム」と呼ばれる用語がある。(参考:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/11466595/)
これは、J Polivy1 が提唱したもので、「変わろうと決心するのは落ち込んでいる時が最も多いこと」を発見した。
先ほどの例にあげると、
- 二日酔いで最悪の気分で目が醒める
- もう酒は一滴も飲まないと決心をする
- 一滴も酒を飲まない自分を想像し気分が良くなる
- しばらくは自制心が発揮されるので、気持ちが満たされる
- 何かの拍子で酒を浴びるように伸み、また節制のない生活に戻る
- 「1」から繰り返す
上記における、2〜4での気分の高揚に酔いしれることが偽りの希望シンドロームの症状と言える。
確かに、変わろうという決心は、目先の欲求を満足させるためには効果的だ。なぜなら、まだ何一つなしとげていなくても、いい気分になれるのだから。
しかし、「自分を変えるための戦略」としては全くうまくいかない。「気晴らしのための戦略」であって、「自分を変えるため」に偽りの希望シンドロームに酔っているうちは、一生自分は変わらないからだ。
変化をもたらす過程で最もラクで気分がいいのは、変わろうと決心をするとき
なぜ、決心したときは「本当に変わろうとしていた」のに、そのようなことが起きるか。
それは、変化をする過程で最もラクであり気分がいいのは、変わろうと決心をしたその瞬間なのだから。
自分は変われるという期待感だけは存分に味わって、その後に続く努力や自制心から逃げれば、ずっとラクだし気持ちが良い。
しかし、最初の高揚感だけを味わっていて、本当に変われるだろうか?答えは明確に否である。
人間にはホメオタシスがある。現状維持をしようとする性質だ。
その性質に逆らってまで自分を変えようとするなら、努力や苦しいことをする必要がある。
いつの時代も、どの人間も、変化には苦しみがつきものだ。
逆に言うと、苦しみがあるということは、変化をしていることと言い換えられる。
自分を変えるためには、自分は変われると信じなければならない。しかし、落ち込んだ気持ちを明るくしたいために「自分は変われる」と期待を抱くだけのワナは避けねばならない
偽りの希望シンドロームは、「変わろう」と一度でも思ったことのある人間なら、誰でも陥るワナだ。しかし本当に変わることができるのは、そのワナに気づき対処した人間だけだ。
「かんたんに目標を諦めてはまた決心する」を繰り返していては、いつまで経ってもあなたは変われない。本当に自分を変えたいなら、信念を持ち、かんたんに目標を諦めず日々の節制と努力と苦しみを感じ、その苦痛を成長痛であることを認識することだ。
もし次、何かに決心をしたなら、毎日自分に次の言葉を投げかけるといい。
「自分の行動を変えるための具体的な努力をするよりも、変わった自分の姿を想像していい気分に浸っていないか?」