『UX原論』から学ぶUXとユーザビリティ、ユーティリティの違い

UXという言葉の定義は企業や組織、団体によってもまちまちである。

いわんや、同僚や上司に「UXってなんですか?」と尋ねて帰ってくる言葉は千差万別だろう。さらに、「UX」と「ユーザビリティ」を混同している人もしばしば見られる。

この本では、「UX」という言葉に対して「多義的で曖昧な定義でのままだと議論ができない」とし、第一章ではISOをはじめとした規格による定義や、UXという言葉の発案者であるノーマンやUXの大家であるニールセン・ノーマン・グループなどの考えも踏まえて「UXとは何か」に論じている。

UXデザイナだけでなく、サービス開発に関わるすべての人々に読んでほしい一冊だ。時間がなければ、その章を丸ごとUXの定義に使っている第一章だけでも読む価値がある。

 

UX、ユーザビリティ、ユーティリティの違い

ユーザビリティの定義

ユーザビリティの定義については、著者の黒須正明自身が定義した記述はなく、ISO9241-11とISO/IEC 25010を対比させ、後者のISO/IEC 25010の考え方を支持したい、と書かれてある。

ISO/IEC 25010の「使用性(ユーザビリティ)」についての定義は、

明示された利用状況において、有効性、効率性および満足性をもって明示された目標を達成するために明示された利用者が製品またはシステムを利用することができる割合

とされている。

黒須正明がこの説を支持した理由として、ISO/IEC 25010では、「製品品質」と「利用時の品質」とに分類されていることにある。

ISO/IEC 25010では、「品質」という概念の構造について、「製品品質」と「利用時の品質」とに分類した上で、「製品品質」の下位概念として「使用性(ユーザビリティ)」として上記の定義をしている。

この分類について黒須は、「製品の品質は能力のことであり、利用時の品質は利用場面における結果のことを意味しているわけである。どちらがUXに関係深いかは明らかであろう」と述べており、明言こそしていないがユーザビリティとは「製品の品質」であり能力であり、「利用時の品質」がUXに近しい概念だと読み取れる。

UXの定義

UXの定義については、黒須が一章の終わりで「暫定的定義」としつつUXの基本要素として、

  1. 人工物との関係で生じること
  2. 利用前の期待や予想、入手、そしてそれ以降の利用の時間軸の存在とその上で変動があること
  3. 対象となる人工物の知覚(近刺激として)に始まり、認知、記憶、感情の各プロセスに至るものであり、さらに時には運動系の反応としてあらわれる心理的プロセス
  4. 個人的で主観的なものであること

としている。

また、2010年に欧州を中心とした人々(発起人4人を含めた計28名)がUXについての議論を行い(黒須も参加)、翌年に『UX白書』が発刊されたが、UXについての考え方があまりに多様であったため、明確に定義しておらず、審議すべき点をまとめたものとなっている。

なお、ニールセン・ノーマン・グループやマイクロソフト、UXPA(UX Proffessionals Association:アメリカを中心としたUXの専門集団)、W3Cなど7つの定義を引用しつつ、英語版ウィキペディアの記載に対して最も好意的な評価を行っている。

ユーザエクスペリエンス(UX)は、システムの利用について、人が如何に感じるかに関することである。UXは、HCIや製品の所有に関する経験的で感情的で、有意味で価値のある側面を重視するが、システムの効用や使いやすさ、効率などの実用的側面に関する知覚もカバーしている。UXは、システムに関するパフォーマンスや感情や嗜好に関係するため、本質的には主観的なものである。UXは、状況が変わると時間軸上で変化するものであるため、ダイナミックなものである。

黒須は上記の記述に浮いて、心理学的な概念を使っていること、UXの主観性や時間軸上での変動性についても言及していることについて、他の組織・団体の定義よりも適切だと述べている。

ユーティリティについての定義

本書ではUXについて述べる前に、先述のニールセン・ノーマン・グループ(NNG)や、イギリスのラフボロー大学でHUSAT(Human Scienses and Advanced Technology)という研究所に属していたシャッケル(1991)の考えを引用しながら、ユーザビリティとユーティリティの違いについて記載されている。

シャッケルの考え方は、ユーザビリティに関連する概念の最上位として「受容性(acceptabillity)」が据えられており、受容性を達成するためにはユーティリティ、ユーザービリティ、好ましさとの総和が費用(cost)とバランスする時に達成される、としている。

ここで言う受容性とは、「購入にあたって最も可能性の高い選択肢であること」であり、販売されていれば購入したいと考えるものや、設置、提供されているものであれば利用したいと考えることとされている。

NNGでは、「受容性」を最上位概念としていることはシャッケルと同様だが、ユーザビリティとユーティリティについては、「受容性」を細かく分類した中の「有用性」という概念の構成要素となっている。

そこでは、ユーティリティについて、

システムの機能がニーズを満たしているか

と定義されている。そこに黒須自身の考え方として、「機能だけでなく性能という特性もユーティリティの一部だと考える方が良い」としている。

その上で、黒須は「ユーティリティは効用や利便性がゼロの状態からプラスにするものであり、ユーザビリティはマイナスからゼロレベルを目指すこと」と説明しており、「どちらも大切であるが、消費者はポジティブな特徴に目を奪われやすく、結果的にマーケティング活動においてもユーティリティに注目される」としている。

 

まとめ

本書を読んでいる中で、特にユーティリティの概念の理解に苦しんだ。

ただこうしてブログの文章としてまとめることで、理解や概念整理に役立った。

アウトプットはインプットの効果を高めるのは間違いない。

改めて考えてみるに「ユーティリティ」とはその製品に備わる機能であり「ユーザビリティ」とはその製品に備わる機能の使用性、「UX」とはその製品に対して出会いから終わりまでで生じる主観的な知覚、と私の中でまとめた(黒須氏がこの定義を見ると苦い顔をするだろうが)